怒られる気まんまん

 それなりに長く生きていれば影響を受けた本というのは数知れないが、いくつかあげるとすればガリバー旅行記、獣革命、スキズマトリックス、Mr.クインあたりがすぐに浮かぶ。スキズマトリックスはその中でもエッジさでは群を抜いているような気がするので紹介する。


 スキズマトリックスは1980年代に書かれたサイエンス・フィクションで、生体テクノロジーが政治問題化して、二大派閥をなして太陽系を舞台に抗争を繰り返すというマジ格好いい未来を描いている。


 二大派閥のひとつは、サイボーグ技術による長命化技術グループ『機械主義者』。
 もうひとつは、遺伝子操作による超人創出グループ『工作者』。
 彼らはお互いの生命倫理観を認められず嫌悪感をもって対立しているが、同時にお互いの持つ技術を奪い合ってゆっくりと混交していってもいる。
 さらに、抗争の長期化に伴い指導グループの保守化と先鋭化する若年グループといったお決まりのパターンを踏み、次々と新たな派閥、小分派が生まれそれが混乱を助長する。生命倫理はねじれた螺旋のようにゆがんでいき、もっともリベラルな人間ですら眉をひそめるような生体工学グループがやすやすとヒューマニズムの殻を破ってく。


 混ざりつつ、分裂し、系統分岐となって進み、種の限界を踏破する。
 肉体と一体化した宇宙服をまとい、四肢がある以外は人間に見えない種族がいる。かつて首から上についていた感覚器官はリプレイスされ、すべて配線しなおされている。
 コロニー全体に肉体を広げた『女』がいる。コロニー内に入ることは女の体に入るのと同義だ。壁が脈打ち、ベッドが肉のぬくもりを提供する。
 コンピュータシステム上の残像に過ぎなくなった男がいる。何年もの間機械と一体と化した生活をし、肉体が燃え尽きたいまでも同じように一人の人間として振舞っている。


 20年以上前の作品でこれである。日本でももっとゼーガペイン系とか粟岳高弘さんの諸作品系とか弐瓶勉っぽいのとかが書かれるべきだ。ダークウィスパー新刊出ろ。コヨミ脱げ。
 シロマサ? 帰れ!