耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳

 すばらしいの一言。
 全体主義国家の演劇的側面、相互監視社会の抑圧された内面、異文化への無理解と衝突、圧倒的悪行に対する憧憬、そして学園物だけがなしうる青春群像。


 というかですね、ディストピアコメディ(今適当に考えたジャンル)大好きな人間にはたまらぬ設定です。
 基本的に登場する政体が人権無視の統制国家とならず者国家しかないあたりとか、なんだかんだでそのエリート層のゆるぅい青春劇じゃねぇかとか、妄言ダダ漏れの語り手の内面とか、完全にもほどがある。


 中でも語り手の内面は特筆に価する。日常生活と妄言妄想がシームレスに交じり合った語り口は、こっそり小説を書くのを趣味としている人間のさらにごく一部の、『駄法螺を吹かないと死んじゃう病』の人間には心地よくすらある。
 そして定期的に混ざってくる人生負け組み特有のルサンチマンあふれる悲しい日常がたまらない。
 学校の先生が「それじゃー、仲のいい子でグループ作ってー」とか言いはじめた時の嫌な汗が理解できる人間には愉悦。
 もうやめて! 読者のライフはとっくにゼロよ!


 だが、異文化を理解できないまま突き放す、あるいは受け入れる冷徹な視点が散見される点、非人道的慣習をエキセントリックな設定としてではなく、たしかに作品世界の慣習として読者に受け入れさせる力など、設定マニア的にもニマニマできる作品である。


 おじいちゃんの年金をくすねてでも手に入れて読むべき。あと作者と語り手はフェチ要素に対する力の入れようが異常。おしっこがらみでどれだけ。