滅ぼせ、人類を。救うために その2

 先日書いた設定のフィーリングチェック用テストコード。

  • シーンテスト1 抵抗都市制圧

 目の前の壁にあいた隙間から炎上する街並みを眺めながら、僕は静かに耳を澄ませていた。パチッという僅かなノイズのあとに、聞きなれた『声』が届く。
『にいさま! 抵抗拠点アルファ・ブラボー、制圧完了しました!』
 これは上の妹のヴァローナ9。
『にいさま! 抵抗拠点アルファ・フォックス制圧完了しました!』
『にいさま! 抵抗拠点ノベンバ・キロ・オスカー制圧完了しました!』
 ヴァローナ14とヴァローナ27。
『にいさま!』『にいさま』『にいさま!』『にいさまにいさま!』
 次々と入電されていく妹たちの制圧報告。


「ようし」
 報告を聞き終えた僕は、それまでいた古い倉庫の壁を蹴り抜き、街路へと踏み出した。炎を上げる街路樹を機関砲で打ち倒し、七本の制御多脚でゆっくりと終結地へと歩みだす。
 背後から、護衛役の妹たちが数騎、制御多脚を駆使して僕の周囲へと展開する。
『――――――――?』
 隣にいた妹が、パチッとノイズを鳴らしたあと朗らかに言った。
「そうだね、コーシカ11」
 と僕は応える。
「この街も制圧完了。あとは生き残りを狩り集めてスキャナーにかけるだけだ」
 制圧にかかった日数は34日。失った妹の数は72騎。科学者達が生きていたらこれをどう評価するだろう?

  • シーンテスト2 拠点への帰還、他の戦闘ロボとの邂逅

 ママ・マシーンは重力ホバーで移動する巨大生産・整備施設で、外見は多数のクレーンや対空砲でハリネズミのようになった装甲パンケーキだ。現在、地球周辺では44基のママ・マシーンが機能している。
 僕たちのホスト・ママは中央アジアのステップ地方に戦線を張る2基のうちの片方で、僕と妹たちの他にも、幾つかの『チルドレン』グループに後方支援を提供していた。
 生き残った妹たちがスロープを登ってママ・マシーンに収容されていく。全員の収納を確認して、一度制圧した街の方角をセンシングした。
 吹き上がる炎が上昇気流をつくっている。火事場嵐の前兆だ。
 僕は妹たちに別れを告げると、メイン・フロアへと足を伸ばした。


 メイン・フロアはこのママ・マシーンをホストにしている全ての『チルドレン』グループに解放されている。僕たちは基本的に周波数を共有していないため、他グループと接触するときにはどうしても有線か外部インタフェースによる接触が必要だった。
 ママ・マシーンに有線してサーバから情報を吸い上げる。ついでに今回の戦闘シーケンスと、僕自身のシステムバックアップを開始する。
 多脚のテンションを緩めてフロアに胴を下ろしていると、扉のひとつから褐色の肌をした若い女が姿を現した。人間? 何でこんなところにいるんだろう。
 人間は、胴を下ろしている僕の前まで来ると、髪をかきあげるようにして首の後ろからコードを伸ばした。僕はマニピュレータの一本を伸ばしてその手を止めた。接触通信でIFFを確認する。
「姉さん!?」
 思わず驚いた声を上げてしまう。
 人間の姿をした姉さんが、にっこりと笑って見せた。


 姉さんは科学者達が人類救済のために起動した『最初の百体』のうちの一体で、そのグループは東欧戦線で人類社会に浸透して情報・破壊工作に従事していた。
 『最初の百体』は、それぞれが独自の人類救済計画を持った独立した戦闘グループを形成していた。これは科学者達の計画で、人類救済手段の多様性を確保することで人類側が迅速に対応しても耐えられるだけの柔軟性を確保し、同時にグループ間で競合が発生することにより救済手段がより洗練されていくことを期待した方策だった。


「でも、最初は姉さんとはわからなかったよ。いつ体を新調したの?」
 最近よ、と言って姉さんは笑った。
「合成DNAから作ったクローンの脳を摘出して、小型化したAIシェルに乗せ変えているの」
 姉さんは僕の胴の上に腰を下ろし、にこにこと笑った。

  • シーンテスト3 妹達のシャワーに遭遇

 整備フロアに向かった僕は、ちょうど妹たちが外装を洗っている現場に出くわしてしまった。
 天井部から高圧の蒸気が噴出す中で、フロアに集まった妹たちが戦いの汚れを落としていく。泥や粉塵、乾いた血やこびりついた肉が落ち、妹たちの生まれたままの姿が見えてくる。
 僕の妹たちはヴァローナ型とコーシカ型がほとんどだ。前者は、ホバリング機能を持った空中機動タイプで、大胆な推力偏向ノズルを持ったパルスジェットと多数の制御多脚で、重量物の輸送から対地・対空中戦までなんでもよくこなしてくれる。後者は、モーター内蔵ホイールを搭載した四本の制御多脚で大地を駆る陸戦機だ。平坦な面ではホイールによる高速移動が、荒蕪地では制御多脚による迅速な移動が可能で、実体弾と高エナジー兵器を併用している。
 と、コーシカ型の一騎が発したLIDERが僕のパッシヴセンサを振るわせた。センサの動作チェックをしたらしい。
 LIDERを発したコーシカ型――コーシカ20――が僕に気づく。僕はあいまいな笑みを浮かべて(IFFで友軍情報を強調発信したのだ)、制御多脚の一本を上げた。
『――――!? ――!! ////――!!』
 いっせいに悲鳴が上がる。パッシヴセンサが高エナジー兵器によるセンシング(射撃前管制だ)を多数確認し、アラートを響かせる。


 僕は全力でその場を逃げ出した。